消えた聖杯
消えた聖杯
その大きな聖杯は
透き通った薄い羽のような肌あいに
どこか緑の蔭を感じさせる
滑らかな美しいシャボン玉のようでもあった
そして見事な彫り物の飾りがついた脚は
地中深くにまで達して
繊細なシャボン玉を支えていた
私はその聖杯に包まれて
光の湯浴みをしたり
光がその聖杯を満たして
きらめきながら縁からあふれて
どこへでも流れてゆくさまを
眺め暮らした
昼夜が等分となったその瞬間
聖杯は忽然と消えた
私も消えた
光も消えた
闇だけが残った
それでもその闇の粒子のひと粒ひと粒は
さんざめく星空のように振動していて
目には見えずとも
生命が燦々と輝いているようだった
音の無い音楽を奏でながら
冥界の王プルートーに
気の良い水星が愛嬌をふりまきながら手を振って
方向を変えた
この奇跡を起こしたのは
誰?
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